新通貨発行を機に
12月17日より50万ドン札を含む新貨幣5種類の流通が開始された。ベトナムで現在流通している通貨は新旧合わせて12種類。内硬貨3種、紙幣については200ドンから新発行された50万ドンまでの9種となっている。
今回の新貨幣発行はベトナム国民に対して大きな不安をもたらしたようだ。ひとつに、現行の最高額紙幣(10万ドン)の5倍にもなる50万ドン札の発行はインフレに繋がると考え、ドンの貯金をドルやゴールドに転換している市民が多いことが挙げられる。今年1月の統計によると、ゴールド価格は、1年前と比べ23.8%も上昇したそうである。更に、ここまで急激な市場価格上昇の背景を説明するには、1985年の貨幣切換事件にさかのぼらなくてはならない。
1985年9月14日、ベトナム中央銀行はそれまでの通貨を廃止し、新通貨への切換を行なった。その際に一部で混乱が発生し「新通貨が使用できない」といったデマが発生。それが原因で、新通貨の実質価値が下がるという事件が発生している。その苦い経験を記憶している市民たちは、財産をゴールドに変えることにより貨幣価値の減少に備えたのである。
ベトナムは、韓国・タイ・台湾・インドネシア・カンボジアなど、かつて独裁政治や軍事政権が存在したアジアの国々が民主化してゆく潮流のなかで、一党独裁の制度に固執する残り少ない国のひとつになっている。
法律の頻繁な改正のみでなく、改正後間もなく現実的でないと判断され取り消しとなるなど、施行前調査が十分に行なわれていない実態を露呈することもしばしばである。
現在のベトナムは、経済発展によって国内矛盾を抑えこみつつ、政治面への国際的圧力を回避しているようにさえ見えるのは、きっと私のみではないだろう。今回の新貨幣の発行を機にベトナム政治と歴史の一部を改めて垣間見ることが出来たように思う。